イラクとイランの関係が緊密化 周辺諸国は警戒強める

 【テヘラン鵜塚健】イランとイラクの関係が緊密化している。両国首脳は22日、テヘランで会談し、関係強化を確認。イスラムシーア派のイランは、昨年12月に米軍が撤退したシーア派主導のイラク・マリキ政権に接近し影響力を強めたいが、トルコやサウジアラビアなどスンニ派諸国は警戒を強めている。

 「両国が強固なら、地域に米国やイスラエルの入り込む余地はない」。イランのアフマディネジャド大統領は、マリキ首相に語りかけた。両国は80〜88年に戦争をしたが、近年は蜜月ぶりが顕著だ。

 核開発疑惑で米欧の経済制裁を受けるイランは近隣国との関係を重視。国営テレビによるとイラクとの貿易額は昨年、前年比50%増の約100億ドル。5月の核協議の会場にもバグダッドを指定した。

 同盟関係にあるシリアをめぐり、イランが孤立を深めている事情もある。イランは反体制派弾圧を続けるアサド政権を擁護するが、アラブ連盟はアサド氏退陣を求め、イランの友好国だったトルコもアサド批判に転じた。相対的に、イラクの重要性が増した形だ。

 一方、イラクは03年の米軍侵攻でスンニ派フセイン政権が倒れ、マリキ政権へ移行。マリキ氏はイランに一時亡命したこともあり、イラク国民の6割はシーア派だ。

 イランの政治評論家ピールムハンマド・モラゼヒ氏は、両国関係の緊密化を「イランとトルコはイラクを取り込みたい。イラククルド人自治区スンニ派)のトルコとの連携を警戒し、イランの力を借りたい」と説明。「スンニ派諸国が恐れるのは両国とレバノン、シリアが強固につながる『シーア派の弧』の完成だ」と述べ、イラクを舞台にした両派の綱引きは当面続くとの見方を示した。

 ◇接近にクルド人問題を抱えるトルコが敏感に反応

 【カイロ前田英司】米軍撤退後のイラクは、マリキ首相が出身母体のシーア派による支配強化を進め、シーア派スンニ派クルド人の宗派・民族対立再燃の様相だ。首相はシーア派大国イランを後ろ盾にしたいが、両者の接近にクルド人問題を抱えるトルコが敏感に反応している。

 10年12月発足のイラク現政権は連立で「権力分散」が原則。だが、マリキ首相は徐々に主要政治家を排除。内相を兼務して軍や警察、情報機関を事実上、手中に収め、「独裁国家に逆戻りした」(アラウィ元暫定政府首相)とさえ言われる。

 イラクのバルザニ・クルド自治政府議長とハシミ副大統領(スンニ派)は最近、相次いでトルコを訪れた。イラク北部の油田地帯を抱える自治政府は、石油収入を巡りマリキ首相と対立。副大統領は、政府職員の殺害教唆の疑いで当局に追われる。どちらもマリキ首相の「政敵」だ。

 トルコのエルドアン首相はマリキ首相の手法を「利己的」と非難した。トルコにとりイラク流動化は自国のクルド人を刺激しかねず、それを助長するイラン伸長は回避したい。

 これに対し、マリキ首相は、トルコが宗派・民族対立を利用して覇権を狙う「敵対国家」と応酬している。毎日新聞 4月25日(水)20時49分配信
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