<イラク>テロや戦闘の死者8.5万人 約5年間で
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【アレッポ(シリア北部)和田浩明】イラク人権省は13日、04〜08年10月の約5年間にテロ行為や戦闘などで死亡したイラク人が8万5694人に上り、負傷者も14万7195人に及んだとの報告書を発表した。保健省の証明書が発行された死亡例を基にした数字で、実際の死者数はさらに多いとみられる。
イラク政府が03年3月に始まったイラク戦争以降、テロなどで死亡、負傷した人数のまとめを公式に発表したのは初めて。AP通信によると、死傷者数は、イラク軍と警察、民間人の合計で、死者には子供1279人、女性2334人が含まれる。また、大学教授263人、判事21人、弁護士95人、ジャーナリスト269人も犠牲になった。このほか、約1万人の行方不明者がいるという。
報道などを基にした民間推計では、03〜08年11月に8万8000〜9万7000人の民間人が死亡している。
イラク戦争後、宗派・民族間の暴力的対立で一時は月間の死者数が3000人を超え、06〜07年には内戦状態に陥った。その後、米軍が増派され、武装闘争を展開していたイスラム教スンニ派勢力が米軍に協力するなどし、治安は相対的に安定してきている。しかし、今もテロ行為は各地で毎日のように発生しており、14日にも首都バグダッドで発砲や迫撃弾攻撃により8人が死亡した。
◆イラクの爆弾テロは、なぜ止まらないの?=回答・和田浩明
◇宗派・民族間、続く対立 戦争で混乱、武器流入もやまず
8月の死者は450人を超え、過去13カ月間で最悪でした。同月19日には首都バグダッドで政府機関が標的になり、約100人が死亡しました。中部や北部を主に、ほとんど毎日のように起きています。
Q 以前と比較するとどう?
A 06〜07年ごろは月間の死者が民間人だけで3500人を超える月もありました。当時に比べれば確かに死者は減りました。6月末に駐留米軍の戦闘部隊が都市部から撤退しましたが、それはイラクとの協定に基づくほか、「治安が相対的に改善した」との判断によるものです。
Q 最近のテロの特徴は?
A 大まかに分けると2種類ですね。イスラム教シーア派やスンニ派、クルド人など、特定のグループを標的にして、宗派・民族間対立をあおり、イラクを内戦状態に陥れようとしているもの。それと、警備が比較的手薄なため攻撃しやすい地方で少数民族を狙ったものです。
Q 誰の犯行なの?
A イラク政府は、旧政権党で03年のイラク戦争後に解体されたバース党の残党や、国際テロ組織アルカイダを非難しています。8月のバグダッド中枢部のテロでは、シリアに逃れたとされる旧バース党幹部の関与が疑われ、身柄の引き渡しを巡ってイラクとシリアの外交問題に発展しました。シーア派武装勢力の活動も疑われています。
Q なぜテロが続くの?
A 宗派・民族間の政治的対立が続いているからです。少数派ながら旧フセイン政権では支配階層だったスンニ派と、多数派でイラク戦争後に政治力を大幅に拡大したシーア派が争っています。ほかにアラブ人主導の中央政府と、北部3県を統治するクルド自治政府の対立は、石油の権益や土地の帰属問題も絡んで「最大の不安定化要因」とみられています。
Q 対話で解決できないの?
A 各勢力とも努力はしています。しかし、イラクは多民族国家で宗派・民族間の暴力的対立が絶えずイラク戦争とその後の混乱で「暴力の文化」が強まったと指摘する専門家もいます。旧政権下で大量に蓄積され、流入が続く武器や爆薬も問題で解決は容易ではありません。(カイロ支局)
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