たまもとさんの記事=大阪から見えるイラク/29


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 ◇戦争と混乱が残したもの
 スンニ派武装勢力バグダッドの獅子」のモハメッド(46)が私に問いかけた。「原爆を落とされた後、日本人は米軍にどんな報復攻撃をしたのかい?」。「抵抗運動はなかった」と答えると、少し驚いたようだった。

 私は自分の伯母の話をした。17歳の時に広島市内で被爆した伯母は、原爆症に苦しんできた。「あの時は、国も人もボロボロになって、とにかく今日を生きることで精いっぱい。敵に復讐(ふくしゅう)するとか、そんなことを思う余裕もなかったよ」

 モハメッドは黙って聞いていた。「俺(おれ)はアメリカ人が憎いわけじゃない。一方的に占領し、国に混乱をもたらした外国軍に怒り、戦った。ただ、仲間が命を落とし、妻や子どもが涙にくれるのも見てきた」

 銃弾が飛び交う中、モハメッドは負傷者を運ぶ救急車の運転を続けた。戦闘で夫を失った女性たちに食糧を配るなどの活動も始めた。「夫が召されたのは、神がお決めになったことですか……?」。ある女性の言葉に、モハメッドは何も言うことができなかった。しばらくして彼は組織から身を引いた。

 通常の市民生活に戻ったモハメッドは、タクシーの運転手を始めた。しかし、それだけでは食べていけず、役所での仕事も兼ねるようになった。職場ではシーア派ばかりが優遇され、スンニ派は後まわしだ。それでも家族のために、悔しい思いも我慢する。

 メンバーが相次いで逮捕されたこともあり、1年半前、「バグダッドの獅子」は活動を休止した。だが、今もロケット砲や自動小銃を倉庫などに隠すメンバーがいる。そのひとり、30代のフサム(仮名)はきっぱり言った。「米軍が撤退してもシーア派が立ちはだかる。自分たちを守るため、武器を捨てることは考えていない」。スンニ派住民はあなた方を支持するのか、と問うと、「戦術を先鋭化させ、外国組織とも連帯を強めるかもしれない」とつぶやいた。

 バグダッド市内のあちこちでは、破壊された道路の補修作業が始まっていた。宗派抗争が沈静化したいま、復興は進もうとしている。モハメッドは憂(うれ)える。「アメリカの敷いたレールを走る列車に、誰もが乗り込まざるを得なくなってしまった。自分はどうしていいのか、まだ分からない」
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